YCL Interview〈⽂化圏を拡張する実践者たち〉

#01 壮大なスケールが生み出すオルタナティブ

西野慎二郎 [GASBON METABOLISM(北杜市明野町)、ガスアズインターフェイス株式会社 代表取締役]

interviewer:井上岳[GROUP、建築家]
photo:三野新[ニカサン主宰、写真家・舞台作家]

2024.04.05

YCL Interview〈⽂化圏を拡張する実践者たち〉は、⼭梨県で活躍する⽂化芸術の担い⼿に迫っていくインタビュープロジェクト。初回は山梨県北杜市にあるアート複合施設「GASBON METABOLISM(以下 GASBON)」に焦点を当てる。GASBONは1000㎡を超える広大な工場跡地に、アーティストレジデンシー(AIR)、展示やイベントスペース、作品を保管できるウェアハウスなどが展開され、さまざまなアート作品を鑑賞できたり、アートの制作風景を間近に見ることができ、国内だけではなく海外からも多くの人が訪れている。隣の棟には、クラフトビール醸造所、ボトルショップ、食堂の三つのスペースがある「MANGOSTEEN HOKUTO」も併設され、文化の複合施設をつくっている。建築の設計を行なっている井上岳(GROUP)がGASBONのもつ建築、地理的な魅力について、GASBON代表の西野慎二郎氏にお話を伺った。


メタボリズム、広大な空間をつくっていくこと

GASBON METABOLISMのエントランス

「GASBON METABOLISM」は「メタボリズム」という建築分野で使われていた概念を施設名につけています。「メタボリズム」は新陳代謝を表し、当時の建築家は建築が生物のように新陳代謝を繰り返しながら、成長していくような建築の設計を目指していました。GASBONにはどのような想いで施設に「メタボリズム」と名づけたのでしょうか?

メタボリズムって僕らが言ってるのは、ある種のプロトコル設計で、プロトコルとしては、どうやったら人類が創造的な刺激を享受できるのかといったことを目指しています。この施設がしっかりと走った状態となるような言葉をつけたくてメタボリズムという言葉を使っています。この施設は自走のための訓練のような場所で、継続して活動でき、制作に取り組む習慣を身につけるための母体となることを目指しています。また、GASBONっていうのはGASBOOKというクリエイターを紹介する書籍シリーズを出版していることと、さらにこの工場は元々ベルボンというカメラの三脚の工場だったからそれを組み合わせただけで、あんまり意味ないんですよ。アンチブランディングみたいなことを考えています。
今後も山梨に数箇所と全国に同様の機能をもった施設を展開したいと考えているのですがそういったユーモアをもって、メタボリズムと場所の個性や地域性をくっつけていければと思っています。たとえば、六本木メタボリズムでも、甲府メタボリズムとかもいいと思う。大きさや機能はそれぞれでも空間と創造性のある状況をどう乗りこなし、引き継いでいけるかが重要だと考えています。

プロトコル設計というのが面白いと思いました。通常これほど大きい施設は、建築家に依頼し、ひとつの大きなコンセプトの下に全体の統一感を出しながらつくっていく、しかし「GASBON METABOLISM」はその広大な面積を分割し、さまざまな事業者に貸出し、事業者それぞれが場所を育てていくように空間がつくられている。ひとつひとつの空間はバラバラだが、全体としては不思議に統一感がとれた状態が生まれています。一般的にこういった空間はプラットフォームと呼ばれることが多いですが、一般的な商業施設の集積やECサイトのように全て同じフォーマットで商品が並べられている、といったような窮屈さが見られない。プラットフォームとして枠組みを決めて空間をつくるのではなく、まるでボールを放り投げてその成り行きを見守るような空間のあり方が生まれていると感じます。

インタビューに応える西野慎二郎氏

ここにきた理由は、都内で運営しているギャラリー、CALM & PUNK GALLERYの家賃とGASBONの家賃が、ほぼ同じということでした。場所がこれだけ広いと、一般的な経済合理性と違って、余白がたくさんある。この広大な空間を全部マネージメントすることは不可能だけれど、ブリコラージュ的な手仕事としてチャレンジングな場所になり得ると考えています。たとえば、一番最初に工務店に頼むのではなく、各職人さんに分離発注を行いました。ちょっと大変だけど、電気屋さんと電気の話をしよう、板金屋さんと板金の話をしようというように。そういった中で今までにないような場所をつくり上げていきました。ここでは実践っていう言葉をよく使います。ブラックボックス化せず、職人さんと確認しながら、コストを抑えながらも、自分の理想のものに近づける。このような文化は初期のテナントさんとか、運営側も身につけてきたと思っています。

「やまなしメディア芸術アワード」の作品展も行われていた

全てのコントロールを保留することによって可能性が広がっていますよね。それがとても魅力的な空間に繋がっているという印象を受けます。ここでの工務店さんというのは、言い換えると設計者と呼んでもいいかもしれません。統一された設計者がいない中で、これほどの面積のものが全体として立ち上がってくる。もし設計者がこの空間をつくるプロセスの中に入るとしたら、どこになると思いますか?

設計者にとっても、GASBONで活動して、外の世界に成果を持っていくきっかけがここにたくさん育ったらいいなと思います。この場所で培われたアイディアが設計者に影響を与えてフィードバックしていく関係みたいな。たとえば、GASBONの中で何かするとなると、建築家たちが5m角ごとに小さなショーケースをつくるやり方があるのかなと、もし建築基準法をクリアできるんだったら、それをやりたいですね。それぞれ設計者は違うけど、全体性が何となくできてくるような場所。

GASBON METABOLISMの展示風景

掃除を通したアイデア、山梨の魅力とこれから

窓からは山梨の山々がみえる

GASBONでの空間的な操作として、全体に清掃が行われていて、さらに点々と水回りや会議室などの設えができています。必要な部分だけがつくられて、撮影セットみたいな印象で、大変面白いと思います。

ここは大きなスケールの空間があることによって、おもてなしをするための最低限の清潔感、ギリギリのとこまでしかケアできない。掃除や改修にも、ちょっとアイディアが必要でした。たとえば、風が強いから埃が入ってくるんだけど、なるべく掃除はしよう、でも限界がある。これを、おもてなしより創造力とか、創作意欲が上位に来るような姿勢に変えようって思ったんですね。「凄いね、この場所」、「自分も大きな作品をつくりたい」って言ってくれる人の方に魅力的に見えるためにはどうしたらいいかっていうのを考えるようになりました。その結果、先ほどのプロトコルの設計に繋がってくると思うんですよ。こうあるようにしようという姿勢の共有をしていくってことですよね。

そして、ここを掃除してるときに思い出したことなのですが、私は福岡の教育大学の出身で、その校舎は、棟の中に一般的な教室や絵画スタジオ、版画工房、現像のための暗室、木彫室もコンプレックスされていて、全部がひとつの棟にありました。それを多分再現したかったんだなと思っています。そういう状況で生まれるものの方がやっぱり面白いと思っています。

そういった場所は特に山梨県で探していたわけではなかったということですか?

なかった。友人が10年前に山梨に引っ越したからよく遊びに行っていた中で、コロナ禍になって、不動産検索サイトを何気なく見てたらここが出てきました。屋内はゴミだらけで、不動産屋さんに本当に借りるんですかって言われて、、、借りますと答えた。まずは、ゴミ出しからでした。

GASBON METABOLISMから見える風景

ここを借り始めて気がついた山梨の魅力をお聞きしてもいいですか?

やっぱり、山々のスケールを感じられることです。大月を抜けて盆地に入ってきた瞬間に、とんでもないスケールの山が立ち上がる。九州とか瀬戸内とか、西の方で育っていると、あの大きさの山って、そんなにないんですよね。塊として大きい。パースが狂うんですよ。この距離に家があるのに、なんであんなに山は高いんだ、みたいな。このスケールの違いにやっぱり最初に来たとき同様、今もびっくりします。GASBONでは、南アルプスや八ヶ岳が見えて、このスケールは、やっぱすごいなと思いますね。アートに関することをしている中で、このような視覚的体験の豊かさみたいな驚きってのはすごいあります。山梨はアートにとって刺激の源泉だと感じさせてくれます。

そして、山梨にこういうオペレーションができる場所をあと2か所つくりたいと考えています。GASBON周辺には清春芸術村や、中村キース・ヘリング美術館、平山郁夫シルクロード美術館、そしてGallery Traxがあって、ここには仲間がたくさんいます。そして、田中泯さんなど、70年代、80年代からここでコミュニティづくりや、ものづくりしていた人がいらっしゃったりする魅力があるんですね。僕らもこの地域でメタボリズム事業を完成させるための土壌としてすごく良くて、山梨の中に何ヶ所かメタボリズムをつくり、そこで培われたアイディアをまとめた上で、他の地方に行きたいんです。アートをつくり出したり、収蔵・保管する施設。そういった施設が複数あることでアートやアーティスト、訪問者が巡回することができる構造にする。それは、アートツーリズムや滞在制作の意味を深くすることができると思っているので、山梨に本当に期待していますね。山梨はそういう可能性があって来る人にとってもそこをめがけていくと、面白いアート施設観光ができるようになると考えています。

情報からの少しのオフセット、再会の回収について

GASBON METABOLISM入り口

今、フィクションより強い現実を情報によって強烈に浴びてる状況じゃないですか。本当は情報がもっと鈍かったら、こんなに激しいリアリティをぶつけられなくて済んでるのに、過剰に情報に触れちゃっている状況がありますよね。人間にはもっと鈍く情報が伝わってくる方が本当は判断できるはずなのに、今は麻痺状態に近いんじゃないかなっていう気がするし、この流れの勢いが衰えることはもうない気もしています。

おっしゃるように常に回答を迫られてるような感覚があります。何かに反対か賛成かとか、どちらが善くて悪いのかみたいな。その回答ができない状態っていうのも大事かな、と思ったりするんですけど。そういう意味でも、情報が集まる東京とちょっと距離を置くっていうだけでも、何かが変わるような気はします。

それは絶対あると思います。だからこのGASBONにも、隠れたテーマとして少しオフセットすると何かが豊かになる瞬間を体験してる人は多分たくさんいらっしゃって、それは山梨だけじゃないかもしれないけど、情報から少し距離を置く、オフセットテクニックみたいなものは確かにあるのかもしれないですね。

今、小学校4年生と1年生の娘がいるのだけど、彼女たちを見てても、半径2mぐらいのリアリティでいいんじゃないかなって思うときがあるんですよね。私たちがいかに遠くのものを動かされてるのかみたいなとこがあって。もう4年生で10歳ぐらいまで育ってくると、もちろん情報も携帯などで取り始めている。取り始めてるんだけど、彼女の成長を見ると、やっぱり半径2mぐらいの世界を大切に、人間って育つんだと思って、とんでもなく遠くのものを俺たちは気にしているんだろうって思うことがあります。彼女たちはGASBONに来れば彼女たちの半径2mにここが入るから、それがいつか滲み出てくればいいなと思っています。

建築でいうと、山口県宇部市には建築家の村野藤吾の建築がたくさんあった。たとえば、ホテル《宇部興産ビル》(1983)だったり、市民ホール《宇部市渡辺翁記念会館》(1937)など。私は市民ホールの横に併設されていた幼稚園に通っていました。その後、東京に住んで、目黒区美術館で村野藤吾展「村野藤吾の建築-模型が語る豊饒な世界」(2015)をやっていて、何の気なしに行ったらさ、その村野藤吾事務所の模型が並べられていた。そこで村野藤吾と再会した。このような再会の回収ってすごい大切で、私にとっての村野藤吾は、まず幼稚園の時に刷り込みが山口で行われて、それが30代40代で再会したときにどういう感受性でそれが見えるか。再会した公園や市民ホールが自分が育った場所だったときってめちゃくちゃテンション上がるじゃないですか。そういう再会の回収って、文化にできる仕掛けだなと思っています。

たとえば、このGASBONで今日、偶然何人かのアーティストが一緒になって予定調和にならないことが起こるのはすごい嬉しくて、山梨っていう距離にエネルギーかけて来たら、知り合いのクリエイターに会えた。みたいなこと。ここで会うとお互い逃げられないし、コミュニケーションの時間が1時間や2時間になると関係が深まるみたいなことは、再会の回収と似ていて、これを縁に何か一緒にやろうとか、そうなっていくっていうことに、とても期待してます。

山梨県北杜市で、様々な試みを続けるGASBONは、身近な実感から始まり、様々なアクターが参加し、この場所を丁寧に読み解いていくことで、面積だけではなく時間軸にも広がりをもつ空間となっているのだと思いました。今後も伺うのが大変楽しみです。本日はありがとうございました。

(GASBON METABOLISMにて)

GASBON METABOLISMの展示風景

インタビューイー
西野慎二郎 Nishino Shinjiro
ガスアズインターフェイス株式会社 代表取締役
1996年に新しいアートとデザインのアイデアを世界中から集める媒体として「GASBOOK」創刊。2004年に国内外のクリエイターと社会・企業を接合するプラットフォームとして同社設立。2006年より東京 西麻布で「CALM & PUNK GALLERY」を運営している。アートの複合施設「GASBON METABOLISM」を2022年8月に始動させた。
GASBOOK: https://store.gasbook.tokyo/ja
CALM & PUNK GALLERY: https://calmandpunk.com/
GASBON METABOLISM: https://www.instagram.com/gasbon_gasbook/

聞き手、テキスト
井上 岳 Gaku Inoue
建築家。石上純也建築設計事務所を経て、GROUP共同主宰。建築に関するリサーチ、設計、施工を行う。主な活動として、設計『海老名芸術高速』『新宿ホワイトハウスの庭の改修』編著『ノーツ 第一号 庭』。また、バーゼル建築博物館、金沢21世紀美術館、NY a83、新宿WHITEHOUSEなどで展示を行う。GASBON METABOLISMが会場のひとつだった「やまなしメディア芸術アワード」の会場構成も手がけている。
GROUP: https://www.groupatelier.jp/
GROUP instagram: https://www.instagram.com/groupatelier/
Inoue Gaku Instagram: https://www.instagram.com/inouegaku/

写真
三野 新 Mino Arata
写真家/舞台作家。周縁化された場所やものに残る記憶や風景を繋ぎ、「ここ」と「あそこ」の中間項を見つけ前景化させることをテーマに研究と実践を行う。主に自身で撮影した写真・映像をもとにフィクションを作り、それを自己と他者の身体、様々なメディアを通して発表するなど、領域横断的に活動している。
近年の主な展覧会に『外が静かになるまで』(十和田市現代美術館spaceほか、青森、2023)など。2020年に写真集『クバへ/クバから』(いぬのせなか座叢書4)を出版。同年『海老名芸術高速』)をGROUP+清原惟と共同設計。
https://www.aratamino.com/
Instagram: https://www.instagram.com/aratamino/

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