YCL Interview〈⽂化圏を拡張する実践者たち〉は、⼭梨県で活躍する⽂化芸術の担い⼿に迫っていくインタビュープロジェクト。今回はアーティストの滞在制作を受け入れている施設のうちArtist In Residence Yamanashi [AIRY]、SAIKONEON、GASBON METABOLISM、6okkenの4者が集まった。
テーマは「アーティスト・イン・レジデンス」。アーティスト・イン・レジデンス(以下「AIR」)とは、アーティストが一定期間ある土地に滞在し、常時とは異なる文化環境で作品制作やリサーチ活動を行うこと。AIRの目的には優れたアーティストの創作・生活支援、地域文化の振興、異なる文化を持つ国や地域とアーティストとの交流、情報や人的ネットワークの促進などがある。一言でAIRと言っても、それぞれの特徴やキャラクター性は多種多様。4者がスペース運営に至った経緯や大切にしている理念などを、前編・後編に分けて紹介していく。
坂本泉
Artist In Residence Yamanashi [AIRY] 代表
山梨県甲府市生まれ。美術館勤務、教職、ロサンジェルス在住を経て美術作家として活動。ドローイング、インスタレーション、パフォーマンスなど。2005年 – Artist In Residence Yamanashi [AIRY] 代表。生家である産婦人科醫院をアートスペースとして解放し、これまで20年間に約35の国と地域から多くの滞在作家を迎えて活動している。モットーは「街に生活にアートが息づく」
Artist In Residence Yamanashi [AIRY]: www.air-y.net
小林利充(cobird / コバード)
美術作家・アーティストインレジデンス「SAIKONEON」マネージャー
大学でデザインを学んだ後、アパレルメーカー にて従事。その後美術作家として活動を開始する。現在は紙素材を使って織物の様に形づくる、ウィービングコラージュ作品を主に発表。また、自身のAIR参加経験を活かし山梨県にてAIR「SAIKONEON」の運営に携わっている。主な活動歴に「Pier-2 Artist In Residence」 (台湾・高雄) 「BEIRUT ART RESIDENCY」 (レバノン・ベイルート)など。
SAIKONEON: https://saikoneon.com/
cobird : https://www.cobirdweb.com/
AIRY(甲府):人とのつながりは自分1人で作れるものではない

坂本さんは山梨県内でAIRの活動を始めたパイオニア的な存在かと思います。どんな経緯で運営を始めることになったのですか?
坂本:90年代にアメリカに3年住んだことがあり、帰国後に地元の山梨に戻ってきた時に刺激や発見がない生活に心が沈むようでした。2005年の横浜トリエンナーレを訪れた際に、当時公的なAIRのモデルケースとしてかなり早くから活動していたARCUSのチラシを見つけて、AIRのことを知りました。もっと生き生きとしたアートを見たいと思っていた一方で、子供がまだ小さくて。ホームステイの形なら自分もできるのではないかと思って始めたのが最初です。でも、わたしがAIRYを始めた20年くらい前は、周りの反応は「何それ?」みたいな感じで、AIRは今よりもっとニッチな世界でした。
AIRYは海外からの滞在者が多いと聞いています。活動初期から海外の方を招致していたんですか?

坂本:自分がアメリカに行った時にいろんな国の人といい交流が多くできた実感があったので、山梨でも何かできるんじゃないかと思っていたんですよね。そんなときに、人からRes Artis(レス・アルティス)*というプラットフォームのことを教えてもらい、そこに掲載したら海外の方がどんどん来るようになりました。ただ、当時は海外の方がたくさん泊まりに来るような場所はあまりなかったので、周りは「甲府で何かやってるみたいだけど、何やってんのかな」といった空気で、正直私たちの存在は県内で浮いていたように思います。
*Res Artis(レス・アルティス):AIRの世界的なネットワーク。芸術創造や文化政策への提言、アーティストの移動や創作の活性化を目的としており、1993年にベルリンで設立された。
レジデンスに滞在した方が山梨に戻ってくることもあるのでしょうか?

坂本:ありますね。一度滞在した方がリピーターとして再び訪れてくれたり、違う方を紹介してくれています。また、以前は利用者が海外の方に偏ってしまっていたのですが、コロナ禍はもっと日本の方や地域の方にも使ってもらいたいと考えるきっかけになったと思います。コロナが落ち着いてきたいま、海外からの滞在者さんとは緩やかな繋がりを保ちつつ、地域に対しては、甲府のカフェと一緒に企画を行ったり、地元のアーティストさんの展示の機会をつくったりと、バランスをとりながら運営できるようになってきています。
AIRYを運営する上で大変なことは何ですか?
坂本:1番大変なのは、人とのつながりを作り、持続的なものにすることですね。人とのつながりは自分1人で作れるものではないので、いろんな方をつなぐ大きな受け皿のようなものがあるといいなとずっと思っていました。甲府の街にはいろんなカフェやレストラン、ライブハウスがあり、そういった場所では英語を始めとした語学が好きな方や写真が趣味の方と親しくなることがあるんですよね。親しくなった方と一緒に任意のグループをつくり、その時々に動ける方にきてもらって、AIRYの運営を手伝ってもらったり、地域との連携を作っていったりしています。

何か、県内の文化事業や文化施設との交流はあるんでしょうか?
坂本:コロナ禍に1度、山梨アートプロジェクトという取り組みで、レジデンスをしながら制作を行うアーティストに滞在してもらいました。あとは山梨県立大学と山梨ゆかりの彫刻家とのつながりで、手で触れて鑑賞することを特徴とした展覧会・ワークショッププロジェクト「手で見るプロジェクト」を開催することになりました。今は、その関連で台湾から来日した3人の大学生を受け入れています。
SAIKONEON(西湖):自己研究と新しいことを始めるきっかけ

運営が始まった順で、次は2019年に始まったSAIKONEONにお話を伺いたいと思います。SAIKONEONはどういった経緯で始まったのでしょうか?
小林:僕は元々サラリーマンの仕事をしていて、35歳の時にcobird(コバード)という名前で美術作家としても活動するようになりました。AIRの領域に足を踏み入れたきっかけは、湯浅克俊さんという版画美術家の方が開催していた、海外レジデンスに応募するためのレクチャー会に参加したこと。湯浅さんは僕と同年代なのですが、イギリスをきっかけに海外でキャリアを積み、レジデンスというものにすごく未来を感じたそうです。レクチャーの1年目は受講生として参加し、2年目は主催者側のアシスタントとして関わっていました。そうしているうちに、尾道にあるAIR Onomichiに滞在することが決まり、そこから僕のレジデンスのキャリアが始まります。その後海外のレジデンスも経験し、SAIKONEONを運営する株式会社ネオン企画の創設者&社長である前原が僕の滞在場所に遊びにきてくれて、一緒にアーティスト・イン・レジデンスをオープンすることが決まっていきました。
SAIKONEONはどんな場所なのか、教えていただけますか?

小林:SAIKONEONは河口湖の横にある西湖のほとりにある、昔の民宿を改修したレジデンスで、僕が運営者として関わってます。僕の印象ですが、日本のアーティストの意識がなかなかAIRに向かないので、ビジネスとしてもほとんど海外の方向けにしか情報を流していませんでした。社長にもインバウンドを狙おうとは話していたのですが、オープンから2年くらいはコロナのど真ん中で。3年目からようやく海外渡航ができるようになって、僕もビザの申請をサポートするようにして、夏頃から海外からの滞在者が増えてきました。今年は9割以上が海外の方たちの滞在でしたね。
日本のアーティストの意識がAIRに向かないという話がありましたが、それはなぜだと思いますか?

小林:これは美術に限った話ではないのかもしれませんが、やっぱりアーティストのキャリア形成ってある程度王道の流れがあると思っていて。その中でキャリアの作り方としてAIRという選択肢が想定されていないというのはあると思います。僕にレジデンスを教えてくれた版画家の湯浅さんは、日本での王道のキャリアの作り方が自分には合っていないと思ったらしく、武蔵野美術大学を卒業した後にイギリスに渡り、そこでレジデンスを通じたキャリアの作り方を周りに教えてもらったそうです。
僕は自己研究に加えて、新しいことを始めるきっかけとキャリアが欲しくてAIRに関わるようになりました。AIRの魅力は普段とは異なる場所で制作ができること。異なる場所に滞在することで普段の環境ではできないリサーチを行い、社会のいろんな視点から刺激を得ることができるのが魅力だと思います。
SAIKONEONを運営する上で意識していることはありますか?

小林:僕はアーティストと付かず離れずの関係を持つことが重要だと思っています。例えば、SAIKONEONは不便なところにあるので僕が車を出すこともあれば、滞在アーティストに公共交通機関を乗り継いで来てもらうこともある。僕がお世話をしすぎると向こうのリクエストも多くなりますし、「探検しよう」「自分でやろう」という気持ちを削いでしまう気がするんですよね。
坂本:山梨は「何も知らない所に行きたい」という冒険心をモチベーションに来る人も多いですもんね。ここはこういう街なんですって決められてないからこそ、自分で街や人の価値を見出す楽しさを感じているというか。
小林:そうですね。あとは富士山や自然環境に魅力を感じて来る方や、2時間で都内に行けるアクセスを行かして全国のAIR滞在を組み合わせる方なんかもいますね。
坂本:カントリーサイドも、地方都市も、大都市のAIRもあるので、いろんなスタイルのAIRがあるのが自然かなと思う。AIRってその自由さが魅力なので、いろんなカラーの中から、来る人が選んでくれる形が望ましいと思いますね。
始まりの経緯は異なれど、外から見た山梨の魅力を肌で感じる日々を過ごしているのは同じ。AIRは、滞在する人に刺激を提供するのはもちろん、運営する者自身にも刺激をもたらしている。後編では、社会実験や表現発表のアイデアとしてAIRを捉えている、GASBON METABOLISMの西野氏と6okkenの筒氏&山口みいな氏の話を紹介していく。
